旧家再生研究所 Produced by 住友林業ホームテック > 旧家ものがたり > Vol.01『文人墨客の遺産』
「美しい書画でしょう」
その古民家の中は、
まるで美術館のようだった。
梅の名所として知られる、奈良県月ヶ瀬村。
築100年のその旧家は、江戸末期から現在まで続く宿で、
ご主人で7代目になるのだと言う。
2階の客間に通されて、驚いた。
広々とした和室の襖には立派な書画が表装され、
まるで美術館のような空間になっているのだ。
「宿泊した人たちが書き残していったものなんです」
「貴重な書画を守ることも、
リフォームの重要なテーマだったんです」
リフォームを考えはじめたきっかけは、
動きがスムーズでない建具や、湿気の多い土間など、
あちこちに気になる部分が出てきていたこと。
さらに、ご主人にとって何よりも心配だったのは、
地震で貴重な書画を失ってしまうことだった。
「思い出深いこの家はもちろん、歴史の遺産を
失ってはいけない」そう思ったのだそうだ。
耐震補強工事
躯体をジャッキアップして基礎を全面的に新設。躯体をおろした後、既存の構造材だけでは強度が足りない部分には新しい材を足して補強した。床の高さが上がった分、天井は圧迫感が出ないように、梁や柱の組み合わせを考えながら高さを出していった。
外観 リフォーム前
外観 リフォーム後
リフォーム前は木部の色を黒に統一していたが、重すぎるのではないかと考え、腰板と玄関は明るい色に変更した。
床材を利用した衝立を設けるなど、随所に「良いものを残し、活かす」精神が見受けられる。
内装
2階にある階段前の和室は、6枚あった障子戸を4枚にして耐力壁を造り、琉球畳に変えた。桟の向きが床の間差しになっている天井は珍しい意匠なのでそのまま残した。
内装
ご主人のイメージする弁柄塗りの色に近づくまで塗り直しをした既存の木部。妥協のないこだわりと職人の技が実現した美しさ。式台は可動式になっている。